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大学教授に直接質問!『指輪物語』についてなんでも聞けちゃう特別講座 前編

2024/03/28
去る3月14日、「指輪物語」に関する質問を大学教授に投げかけ、直接答えていただく番組をHJ-TRPG配信にて生放送しました。
出演は慶應義塾大学でトールキン研究を手がける髙橋勇教授。過去に『1つの指輪:指輪物語TRPG』のセッション配信にもご出演いただいたことがあります。

今回の記事では、「『指輪物語』についてなんでも聞けちゃう特別講座」と題して行なった、この放送内の質疑応答をまとめました。教授によるさらなる補足を加えたうえで、一挙に掲載いたします。

なおすでに掲載している番組告知記事でも、以下の5つの質問に回答いただいております。こちらもぜひご覧ください。

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過去の質疑応答


番組告知記事その1(2月8日掲載)
Q1. 『指輪物語TRPG』でドワーフのキャラクターをやってみたいです。ドワーフの女性ってヒゲ生えてるんですか?
Q2. 『指輪物語TRPG』ルールブック212ページには「後援者」としてアラゴルンのお母さんであるギルラエンが載っていますが、映画には出て来なかったのでどういう人か詳しく知りたいです。
Q3. 映画『ロード・オブ・ザ・リング』見ました。フロドは最初から滅びの山まで鷲に乗って行けばいいのに、なんでそうしなかったんですか?

番組告知記事その2(3月5日掲載)
Q4. レゴラスとギムリは、第四紀になったあと最後に中つ国を離れましたがその間、家族をもうけたりはしなかったのでしょうか?
Q5. PJの映画でもアマプラの配信ドラマでも、なぜかエルフは耳の上辺が尖っています。トールキンの原作にはそのような記述はなかったと思うのですが、いつ、どこからそういう造形が始まったのかわかりますか?

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質疑応答一覧

(質問者のお名前が書かれていない質問は、配信中の司会による質問です)


Q6. ホビットの冒険、指輪物語、シルマリルの物語に猫って登場しましたっけ?
見た事がないような気がするんです。
いないの?猫は!(とととさんからの質問)

A6. 古いバージョンのトールキン神話には邪神メルコ(のちのメルコール)の部下に、力のある猫がいて諜報活動を行なっていますが、詳細は不明です。現在の作品中ですと「躍る小馬亭」のボブが猫を飼っている模様。
あとゴンドール12代国王のタランノン・ファラストゥルの妻ベルーシエルの猫については『指輪物語』でちらっと出てきます。彼女は9匹の黒猫と1匹の白猫を飼っており、各地に派遣して諜報活動を行っていたそうです(『終わらざりし物語』)。
つまり猫自体はいるし出てくるのですが、あまり物語そのものには関わってきません。ずる賢いイメージで描かれていることから鑑みるに、ひょっとするとトールキンは猫派ではなかったかもしれませんね。動物も飼っていなかったようですし。


Q7. そうすると、犬はどうなんでしょうか? 出てきましたっけ?

A7. 配信の時にはいろいろ混乱して話しましたが、むしろベレンを助けたフアンの方が犬でした……。この犬はヴァラのオロメの飼い犬で、のちにフェアノールの息子ケレゴルムに下賜され、ルシエンがベレンを救う探索に貢献します。というか、狼に姿を変えたサウロンを撃退するというレベル。そして人生(犬生)で二度だけ人語を話しました。ベレンの手をかじったのは人狼のカルカロスでしたね。すみません。
で、『指輪物語』内での犬ですが、見たところマゴットさん、バタバーさん、そして帰還した時のコトン家の場面で番犬が出てくるようです。印象としては、トールキンにとっては犬とは猟犬・番犬だったのではないでしょうか。描写の数からして、私はトールキン先生は猫派/犬派でいえば犬派だったように見えます(笑)。


Q8. ノルドール最後の上級王、ギル=ガラドが用いたといわれる槍“アイグロス”は彼の死とともに行方がわからなくなっています(ざっくり調べた範囲では)。
もしこれをシナリオに登場させる場合、実在する・しないに関わらず、どういった経緯であれば「ありそう」と思ってもらえそうでしょうか?(かみつかいさんからの質問)

A8. ネットで調べたところ、オンラインゲームでは好き勝手に扱われているようですね……。
原作準拠で一番ありそうなのは、ギル=ガラドの副官エルロンドが引き取ったというシナリオでしょうか。そうなると裂け谷、もしくはエルロンドの関係者がいるロスロリエンに引き取られているのが一番ありそうです。
その後サウロンとの戦いでそれを振るいそうなのは、たとえばケレボルンです。激戦だったロスロリエンで、ガラドリエルが引き取った槍を夫のケレボルンに与えたとか。もしくは裂け谷で「勇者」と目される誰かでしょうかね。
(「グロールフィンデルは?」というコメントを受けて)グロールフィンデルでもいいんですが、西からやってきたエルフにわざわざ裂け谷やロスロリエンが槍……つまり使命を与えるかどうかというのは、そういう儀式を行なってということになりますから、それはシナリオ次第かなと思います。剣のアンドゥリルと槍のアイグロスを両方エルロンドが保管していて、片方を人間アラゴルンに渡しもう片方をエルフのグロールフィンデルに、というのも美しいとは思います。


Q9. “アイグロス”って名前もかっこいいですよね。エルフ語だからやっぱり意味があるんですか?

A9. 意味としては「氷の切っ先」「氷柱」といったところのようです。なんか刃先がさえざえとしている感じがしますね。
これは私の勝手なイメージですが、エルロンドが継承したエルフの三つの指輪の一つヴィルヤ(青の指輪)と対にされているのではないでしょうか。ヴィルヤは「空」の指輪ですが、水を支配できたような感じの描写が、ブルイネンの渡しでの事件で見て取れなくもありません。


Q10. お尋ねしたいのは、ガンダルフについてです。ガンダルフといえば、杖を持ちローブを身をまとい、長いひげを生やした老人という、いわゆるファンタジーRPGに登場する魔法使いのイメージを確立したキャラクターですよね。
ですが、結局のところガンダルフって何者なんでしょうか?実は人間ではないとか、見た目通りの年齢ではないとか聞いたことがあります(カードゲームのマジック:ザ・ギャザリングでは「アバター」というカテゴリになってました)。
灰色から白に変わるのってどういう意味なのか?それから、彼とサルマン以外にも魔法使いがいるという話も聞いたことがあります。
指輪物語TRPGでシナリオを作るときにガンダルフを依頼人にすることが多いので、プレイヤーに何か訊かれたとき端的に答えられるようにしたいのです。まあ、「魔法使いを簡単に理解したい」などという安易な考えをするとガンダルフにお説教されてしまうかもしれませんが……。よろしくお願いします。(サンダーさんからの質問)

A10. ガンダルフ自身に聞いたら、「魔法使いなんてものはいない」と言われて終わってしまうでしょうね(笑)。
「魔法使いとは何か」については3つほどレイヤーがあります。まずトールキン自身のイメージ元はドイツの「山の精霊」を描いた絵葉書だそうです。さらには杖を持ち各地を放浪する老人というイメージ像は、北欧神話のオーディンがモチーフでもあるとのこと。
続いて作品内でのガンダルフは、サウロンの脅威を憂えた神々から中つ国へ派遣された5人の下級神(マイアール)の一人ということになっています。サルマン、ラダガスト、あと物語に登場しない2人の「青の魔法使い」とともに、悪の力に抗するための智慧をエルフと人に与える役割を負っていました。
要は神様の一人なのですが人間の肉体をまとい、かつ(エルフと人間の自発的な行動を促すべく)超常的な力の行使を著しく制限されています。
灰色のガンダルフが白になるというのは、白がトップの色で、サルマンが闇に魅せられて堕ちてしまったのでそのあとを継いで白になったということですね。
もう一つレイヤーを追加すると、「白」というのはすべてを混ぜた色で、キリスト教的には「神」を表します。そうなると、薄汚れた、地に足をつけた存在から、神々の代行者の地位へと変化したとも取れますね。

Q11. 白がトップというお話ですが、灰色や茶色はその下なんですか?

A11. 上の回答にも書きましたが、白は至高の色。サルマンははじめ特に知識に優れたトップとして派遣されました。ラダガストは自然に秀でており、ガンダルフはエルフ・人間に共感するという立場の違いで色が異なっていたものと思われます。
サルマンの没落によりガンダルフが白となったのは、闇との対決こそが「白」の使命だということでしょう。青は知らん。


Q12. 「指輪物語TRPG」には魔法使いになるルールがありません。ガンダルフもあまり魔法を使わず、主に剣で戦っていた気がします。この世界での魔法というのは非常に珍しいものですか?魔法使いになりたい場合、どうすればいいでしょうか。(marauderさんからの質問)

A12. 日本語では「魔法使い」ですが、シンダール語(エルフ語の一つ)では「イスタリ」(賢者)で、英語でいうと「Wise(智慧)」を元にした「ウィザード/Wizard」です。
彼らは「智慧」こそがその存在理由で、超常の力を使うことは基本的に神々により禁じられていて、智慧で人々を動かす存在とされています。神が直接人を助けるのではなく、あくまで導き助けるだけというのは、トールキン自身の宗教観でもあります。
さらにイスタリはそもそも下位の神々ということになっていますので、エルフ以下アマンの知的生物が「クラスチェンジ」する存在ではありません。なのでこのゲームで魔法使いをやりたいのであれば、「外から来て、何かを言って去っていくじいさん」みたいな形にしましょう(笑)。
エルフたちが互いに心を読んだり、ガラドリエルの水鏡に未来のことと思しき事象が映るのは、上級種族としてのエルフがもともと持っている洞察力だと思われます(たまに訪れる未来視とか)。ゲーム上ではエルフに時おりこうした天啓がくだるといった演出はありでしょうね。たとえば、人間なんだけど突然そういう啓示があって、生まれをさかのぼってみたらヌメノールの血が入っていた、といったシナリオもありですよね。


Q13. ガンダルフがたまにドカーン!とビームを撃ったりするのは、ほんとはいけないんだけどピンチなので仕方なくやっているんですね。

A13. あれはかなりレアケースですね。魔法を使うとサウロンにバレてしまいますし。
しかし「神」の一柱である以上、物理的な制約を超えたことができるのは世界観的には間違いないでしょうが、それが「人間の体」に閉じ込められている状態で行われているわけですから、負担が大きすぎるのではないかなあと現代ファンタジー/ゲーム脳の私としては思います。そう、おそらくは「ここでやらねば」という仕方のない状況でしか発動しないのでしょう。分かりませんが。


Q14. ガンダルフがバルログを迎え撃った場面や、ガラドリエルが水盤で過去未来を見通す場面などで魔法を使いますが、呪文を行使するというよりは、その人物の能力が発揮されているように描かれているように思われます。中つ国には、RPGにあるような学術的に共有されうる魔法、呪文の体系というものはあるのでしょうか。それとも魔法は、エルフ、ドワーフ、イスタリといった種族が備えている個体的超能力なのでしょうか。
世界が歌曲から産み出されたので、呪文の形で魔法が伝承されるのだと美しいかなと感じるのですが。(ホビージャパン社員からの質問)

A14. 歴史的・文化的に面白いところなんですが、「超常の力」を持つとされたのは何にもまして、「文字を操れる」神職でした。
私も詳しくはないので反論が来るかもしれませんけれど、「ことば自体」で超常的な力を使うという考えは、むしろインドから東アジアの方が早かったのではないでしょうか。真言とか祝詞とか。
18~19世紀ヨーロッパの魔術(クロウリーなどが有名ですね)は、東洋の影響を強く受けて成立しました。20世紀のファンタジー/RPGに見られる「呪文による魔法」はたぶんこの19世紀以降の歴史的産物だと思われます。
で、言語学者であるトールキンの視点からすると「言語が力を持っているのは当然」でしょうが、それはモルドールの暗黒語の不吉な影響のように「発すること自体が影響を与える」ような間接的なもので、「ファイアーボール!」みたいな物理的現象を直接起こすものではないでしょう。ガンダルフの指からビームは、全体を見るにやはり種族的(?)属性なのだと思います。
呪文体系というものはないのですが、エルフの古い言葉を知っていることがある種の力になるかと思います。サムなんかは、勉強していないのに「エルベレス・ギルソニエル!」という言葉がふっと湧いてきて、かといってそれで敵が倒せるわけではなくて内面の力が湧いてくる、そういう力があるということですね。


Q15. オークの言葉について
・キリス=ウンゴルでサムが聞いたオークの言葉はオーク語でしょうか、それとも(指輪の力で聞こえたので)暗黒語でしょうか?
・サルマンの配下のオークは共通語とオーク語を話していましたが、暗黒語は使用しなかったのでしょうか?
※使用している言語でどちらのオークか推測できるのではないか、と思っての質問です。(ほりびさんからの質問)

A15. オーク語は部族によってあまりにも異なるため軍などでは役に立たず、やむなくサウロンが作り出したのが暗黒語(黒の言葉)でしたが、第二紀の終わりにサウロンがいったん滅ぶと忘れ去られて、また言語としては「壊れた」とのこと。ですから互いのコミュニケーションのためには後期暗黒語(仮)か、崩した共通語をしゃべっていたものと思われます。
キリス=ウンゴルのオークは守備兵ですから「出身地が一緒」的な場合以外はいずれかかと。個人的には、モルドールの前哨地点ですし、共通語をしゃべる意味はあまりないので後期暗黒語であってほしいです。ただフロドやサムが意味を理解できているのはどうしてかということになりますね。指輪の力で理解できたのかもしれませんが、詳しくは記述がないのでわかりません。
一方アイゼンガルドのほうはサルマンともコミュニケーションを取るわけですから、共通語ベースの言語だったのではないかなあと。ゲームではこの二つを区別しても面白いかと思います。なおナズグルは千年前の本来の暗黒語を使えたので、聞いた人々に恐怖をかきたてることができました。


Q16. 言語の違いを利用して「暗黒語をしゃべるオークがこんなところにいるなんておかしいぞ」といった演出もできそうですね。とはいえ暗黒語を話せるとなるととんでもない力の持ち主になっちゃいますから、後期暗黒語であればそんなに恐ろしくはないんでしょうか。

A16. エルフや人にとっては耳障りですが、もとの暗黒語からはすっかり崩れた世俗語になっていますから、聞いた人に力を及ぼすようなことはないでしょう。というかオークに話しかけられただけでは、ホビットたちも特に影響は受けていませんね。
むしろナズグルは「最近のオークどもはこんな崩れた若者言葉をしゃべりやがって、けしからん」と怒っている……どころか、実は意思疎通も「言語を通じては」できていないかもしれません。ナズグルたちとオークって会話してるんでしょうかね……。

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質疑応答の量が多いため、残り半分は「後編」にて掲載いたします。
また、放送後に追加で受け付けた質問への回答も、後編でお答えしますのでどうぞお楽しみに。

~~~告知コーナー~~~
新作『失われた王国の遺跡』発表!


『一つの指輪:指輪物語TRPG』の新作サプリメント『失われた王国の遺跡』が4月末発売予定で製作進行中です!
これは『指輪物語』に描かれたさびし野、別名エリアドールの地域設定本であり、諸地域の解説やNPC紹介、今後“起こり得る未来”を構想するための物語的要素などがたっぷりと書かれています。
また、『指輪物語』と『ホビットの冒険』で言及されている“歴史的な”場所と、ゲーム用に新しく作成された場所を合わせて計12ヶ所の名所旧跡も載っており、新しい冒険の舞台にうってつけです。